2017年01月15日

小説の続き書きました。新版・遠いデザイン4-6

2001年 冬

 農機具がしまわれた大きな納屋の周りを、まだ生まれて間もない仔犬が跳ね回っていた。陽光の下、容器の中の土の黒さとは対照的な白いプランターが眩しかった。
「よかったこと、悪かったこと、一年間育ててみて、初めていろんなことがわかるんです。からだ、動かせば、その分、次の年の肥やしになる。野菜も果物もみんな正直なもんですよ」
 男はそういいながら、仔犬を膝の上に抱き上げその背中を撫でた。鼻先に止まったテントウ虫に驚いて、仔犬は丸い目を細めて首を振った。日盛りの庭には温められた肥料の臭いが漂っていた。男は七瀬が帰る時、車のトランクを開けさせ、土が付いた野菜がいっぱい詰まった段ボール箱を入れてくれた。
 納屋の左手には露地栽培の白菜畑が広がっていて、霜降りの大きな蕾みのような葉の固まりが緑の色を深めながら彼方へと伸びていた。七瀬はハンドルに手を置いたまま、そんな午後の田園風景をしばらくぼんやりと眺めていた。


遠いデザインとは、遺伝子の設計図のこと。
15年前の2001年が舞台の古いお話です。



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