2016年12月25日

小説の続き書きました。新版・遠いデザイン4-5

2001年 冬

 まるで、一本の導火線の先々に予め火薬でも仕掛けられていたみたいに、次々と笑いの連鎖が起こった時、七瀬もつられたとばかりに顔を上げた。そして、まっすぐに亮子を見つめた。
 亮子の横顔がそこにあった。うつむいていたので額に垂れた前髪が目の表情を隠していたが、形の良い鼻梁と少し厚めの唇がはっきりと見てとれた。白い肌の横顔が空間に孤立していた。
 こんな田舎じみた組織の中になぜこんなにきれいな子がいるんだろう? 七瀬はその不思議をあらためて感じた。ただ、陽に暖められた土の匂い、緑の梢を巡る風の感触、小石を揺らす柔らかな水音、そんなこの窓の先にある、きっと、この組織とも遠くでつながっているそんな風景と、亮子が重りあうような気もした。
 一人の男の声が投石となって、澄み切っていた七瀬の心に波紋が広がった。彼は亮子から目をそらした。
「問題は婦人部の連中の理解だよ。こう兼業が多いと、奥さんの意見が強いからね。つまり、商品の認定からもれた農家をどうするかってことだよ」
「もともと、ブランド化の話は、柑橘部さんの青年部の方から上がってきたんだろう」
 プロジェクトは終盤にきているというのに、また初期の問題が蒸し返される。青年連という言葉を耳にして、七瀬は以前、この仕事で取材した柑橘部の青年のことを思い出した。広い庭を望む縁側に並んで腰掛けながら、青年は栽培している品種の特長やら、無農薬の栽培法やら、食味期限やら、七瀬の質問にたどたどしく答えてくれたものだ。


遠いデザインとは、遺伝子の設計図のこと。
15年前の2001年が舞台の古いお話です。




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