2015年05月31日

小説の続き書きました。遠いデザイン16-6

遠いデザイン16-6

2001年 初夏

 七瀬は携帯電話を取り出して、大きく深呼吸をした。そして、電子の宝箱にしまわれていたその番号を呼び出して発信ボタンを押した。二、三度鳴っていた呼び出し音が四度目の途中で切れて、亮子の声が生まれた。
「えっ・・・・・・七瀬さん?・・・ですか、お久しぶりです。……どうしたんですか?」
 いつもの七瀬なら、その亮子の物言いが微妙な戸惑いを含んでいるのがわかったはずだ。しかし、彼は亮子の声を耳にした瞬間、何か心強い味方に再会したような高揚感がきざし、そんな彼女の感情の襞に気を回す余裕などなかった。
 そして、奥底に流れていた不安が、かけがえのないその存在をただ喜ばせてあげたいという欲動へと変わり、七瀬の胸を駆け上がっていった。彼の言葉は淀みなく口から流れはじめた。
「いま、電話いいですか? 川奈さん、じつは話したいことがあるんです!」
「えっ? ・・・ええ」
 明らかに言い淀んだ返答であったが、七瀬はすでにその先に用意してある。
「川奈さん、ぜひ、話したいことがあるんです。一度だけでいいですから、二人だけで会ってもらえませんか?」
 彼女は口をつぐんだ。そして、その沈黙はしばらくのあいだ続いた。やがて、「そうですか、そうですか」という苦しげな反復が聞こえてきた。その搾り出すような口調は、七瀬の気持ちを暗転させ、この電話の結末を瞬時に悟らせた。
「あの・・・・・・申しわけないんですが、私、おつきあいしている人がいるんです。だから、ほかの人と、二人だけで会うのは、ちょっと・・・・・・」
 七瀬は声が出なかった。全く予期していなかった展開だった。もう、ここで終わろうと思った。つなぐ言葉が見つからなかった。
「そうだったんですか・・・・・・。では、もう、いいです。いいです・・・・・・」
 七瀬はやっとそこまで言って、電話を切ろうとしたが、ある気配が指を止めさせた。亮子はまだ電話を切らずにいる。切る気配がないことが七瀬にも伝わってきた。
 オレが何を話したかったか、彼女は見極めたいんだろうか?
 七瀬は、すごくためらいつつも、いまこの場で自分の気持だけは打ち明けてしまおうと決心した。渾身のstoryはすでにさわりで破綻したのだ。それをアドリブでつくり変えるだけの勇気も機知も気力も、今の彼にはなかった。
 七瀬はさんざん推敲を重ねたstoryの続きを電話口で読みはじめていた。
「ボクハ、川奈サンノコトヲ、好キニナッテシマッテ、今マデニ、コンナ気持チニ、ナッタコトハ、ナカッタンダ。ココズット、ソノコトデ、仕事モ、手ニ着カナカッタンダ。タダ、ソレダケヲ、ドウシテモ、キミニ伝エタカッタンダ・・・・・・」
 受話口からは「はい・・・・・・はい」という短い相づちが、時々聞こえてくるだけだった。



遠いデザインとは、遺伝子の設計図のこと。

14年前の2001年が舞台。
中年男が若い女性に憧れる、よくあるテーマの小説。
この歳になると。そんなことしか書けませんので…。
地域の産業支援を本格的にやりだしてから、
コピーを前みたいに書けなくなったので、
その手慰みのつもりで書いています。


Posted by Fuji-Con at 19:28

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