2014年12月07日

小説の続き書きました。遠いデザイン12-10

遠いデザイン12-10

2001年 春

 映像室で三谷から聞かされた話が下地になって、七瀬は、土曜日にかけてきた電話は、亮子が自分のケイタイの番号を教えることが目的だったように思えてきた。わざわざ休日に、そもそも要件からして不自然だったように思えた。
 亮子はオレに、好意のようなものを抱いてくれていたんだろうか? だから仕事が終わっても連絡をとりあえるホットラインのようなものを残そうとしてくれたのか? いや、少なくても嫌われてはいないはずだ。だって、自分のケイタイの番号を知られてもいいと思ってかけてきたんだから。
 四月もすでに下旬を迎えていた。不景気な世相を反映してか、朝刊に折り込まれるチラシの数は相変わらず減る気配がない。七瀬は大小様々なチラシの束からようやく本日折込みされているJAのチラシを見つけ出し、リビングのガラステーブルの上に広げてみた。
「ブランド産品誕生!」のコピーが踊る紙面には、認証マークを肩に付けながら、メロン、ミカン、緑茶、白米などの商品写真が並んでいる。七瀬は、亮子との日々が凝縮されたその紙面をしばらく懐かしく見入っていたが、そのうちにキッチンの方から聞こえてくるガスバーナーの着火音、フライパンを跳ねる油の音、ポットに注がれる熱湯の上昇音、冷蔵庫の開閉音などが、不純な雑音となって耳に付いてきた。彼はチラシを畳んで通勤用の鞄の中にしまいこんだ。
 壁際に鎮座する大型のリビングボードの前には、登校した長女愛読の数冊のコミック本が昨夜読み散らかしたままに乱雑な背表紙を見せている。小学校も高学年に上がり大人の片鱗を垣間見せるようになった娘に、七瀬は最近、脅威を感じることがある。その成長の代償として自分の老いがあると思えるからだ。
 それでも、食卓に並ぶ朝食のハムエッグの黄身はいつものように半熟で、トーストも好みの濃いキツネ色に焼かれていた。バターを塗ると、ザラついた表面からこぼれ落ちたパン屑がスリッパの回りを汚した。


遠いデザインとは、遺伝子の設計図のこと。

13年前の2001年が舞台。
中年男が若い女性に憧れる、よくあるテーマの小説。
この歳になると。そんなことしか書けませんので…。
地域の産業支援を本格的にやりだしてから、
コピーを前みたいに書けなくなったので、
その手慰みのつもりで書いています。


Posted by Fuji-Con at 18:09

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