2014年07月19日

小説の続き書きました。遠いデザイン12-1


遠いデザイン 12-1

 初校の戻りから三日後、七瀬はJAの打ち合わせブースで約束通り、チラシの再校を亮子の前に広げていた。その場で修正個所を丹念に目で追う彼女を前に、七瀬はどこか落ち着けないでいる。あの敵意に満ちた視線が、またどこかから飛んできそうな気がしたのだ。
 たくさんのそばだてられた耳があって、二人の会話を証言台に乗せている。そんな病的な妄想さえ頭をもたげてくる。午前の早い時間のためか、客が疎らな店内はとても静かだった。
「大丈夫ですよ、川奈さん、この場ですぐに返事をもらわなくても。この校正紙は預けておきますから、ゆっくりと最後のチェックをしておいてください」
 気を取り直してそう言うと、紙面に向けられていた真剣な目がとたんにゆるんで、亮子が微笑みながら頷き返した。
 ここまできて必要以上に納品を急ぎたくない。それは七瀬の本音でもあった。
残るはこのチラシだけだったが、早く校了がもらえたところで、スケジュールに抑えてある輪転機が回るのはどのみち翌週からだ。刷り上がってから、たった一文字でも間違いが見つかれば、今までの苦労が水泡に帰してしまう。七瀬はここにきて、長く亮子と一緒にやってきたこのプロジェクトをせめて気持ちよく終わらせることに気持ちが傾いていた。
 週明けの月曜日に返事をもらう約束をして、七瀬は席を立った。これが最後の打ち合わせになるかもしれないのに、結局、二人は最後まで親しい会話はできなかった。
 駐車場へ向かう途中で七瀬はJAの建物を振り返って見た。肩を寄せ合うように並んでいる旧館と新館。二つのコンクリートの白い外壁が周囲の木々の影を淡く揺らしながら、まるで親子のように色艶の違いを際立たせている。
 もう、自分はもうこの場所に立つことはないだろう。そう思う七瀬の頭上から重なり合う枝葉を透かして木漏れ日が斑に揺れながら落ちてくる。一年以上も通い続けて見慣れてしまった風景の中を二度目の春が流れていた。
 七瀬は乾いた地面を力なく蹴った。白い土埃が立ち彼の革靴をうっすらと汚した。



遠いデザインとは、遺伝子の設計図のこと。

13年前の2001年が舞台。
中年男が若い女性に憧れる、よくあるテーマの小説。
この歳になると。そんなことしか書けませんので…。
地域の産業支援を本格的にやりだしてから、
コピーを前みたいに書けなくなったので、
その手慰みのつもりで書いています。


Posted by Fuji-Con at 09:13

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