2014年05月23日
遠いデザイン 11-3
遠いデザイン 11-3
あいつらは、オレが亮子に気があることに気づいている・・・・・・。
七瀬は、歩いているうちに、そんな思いが頭から離れられなくなっていた。
中年のオヤジが得意先のオンナに手を出すな、ということか。しかも、とびきりの上玉に。そして、間違いなくあいつらも亮子にホレている・・・・・・
・・・・・・まあ、そんな気持ちもわからなくもないが・・・・・・でも、あいつらは、いったいあいつをどんな風に見ているんだ。オレみたいに、あいつの魅力を正確にとらえているのか? 少なくてもオレはあいつらみたいに軽薄じゃないしな。
亮子の顔がこの雑多で薄汚い地下道へと降りてきた。それは以前、JAの予算会議の席上で七瀬が目に焼き付けたあの静謐な横顔だった。
駅に電車が到着したらしく、前方の人の流れが急に膨らんで、様ざまな靴音を響かせながら迫ってくる。
似ている芸能人なんていない……。そう、あれは今の顔じゃない。亮子はオレが若い頃に出会うべき顔だったんだ。いや、もしかしたら、それよりもずっと以前の顔なのかも知れない。・・・・・・たとえば、あの雪国の町、山あいの鄙びた温泉旅館、あの芸者の名前は何ていったろう・・・・・・そんな小説、昔、読んだことがあるな・・・・・・オレよりずっと年上のはずなのに、亮子がオレよりも若いのはどうしてなんだ? 誰が、何を、取り違えたというのか?
七瀬はとりとめもなく点滅する亮子のイメージに足元をふらつかせつつ、人波の中央を抜けていった。肩の左右に分かれて飛ぶ若い女の顔、顔、顔・・・・・・。七瀬はその中に亮子に似ている顔を探す。
マスカラとアイライナーで隈取られた皿のような目、その上にペンシルで引かれた小動物を思わせる眉、若い男の体臭と甘いスイーツの匂いにしか反応しない玩具のような鼻梁、春色のルージュがいっそう強調する締まりのない口元。
どれも、これも、安っぽい顔ばかりじゃないか。まるで流行雑誌から抜け出してきたバーゲン品みたいだ。亮子のように、この無機質な地下道に一点の叙情を落としてくれる顔、そんな本物の顔などどこにもありはしない・・・・・・
七瀬は、今、またつくりあげた亮子の清新なイメージに一人満足して、乗せ続けて歩いていた足を中央の点字ブロックから外した。
まばらになった人影がこの地下道にギターを抱えた若いストリートミュージシャンがいることを教えてくれた。前を歩いている女子高生たちが短いスカートから伸びる足を止めて、さっそく男の値踏みをはじめる。階段を上がってコンコースに出た時、地下道の方から歌声が響いてきた。懐かしいナンバーだったが、それは七瀬が若い頃に親しんだ音曲とは何かが違っていた。
遠いデザインとは、遺伝子の設計図のこと。
13年前の2001年が舞台。
中年男が若い女性に憧れる、よくあるテーマの小説。
この歳になると。そんなことしか書けませんので…。
地域の産業支援を本格的にやりだしてから、
コピーを前みたいに書けなくなったので、
その手慰みのつもりで書いています。
Posted by Fuji-Con at 17:51