2014年05月06日

遠いデザイン 11-2

遠いデザイン 11-2

 コンクリートと金属と合成樹脂でできたこの街にも、春の粒子は確実に忍び込んでくる。ショーケースの低い足元へ、事務机の暗い引き出しの奥へ、空調設備の擦り切れたダストの管へ、とんでもなく小さな空間にさえくまなく侵入して、一つの雰囲気をつくりあげる。それは気まぐれな人間たちの仕事と違って時間の継ぎ目が見えないほどに巧妙だった。
 七瀬は地下道から駅の反対側へ出ようと思い、表通りに開いた階段口をさがす。情報誌のオフィスビルがある駅南地区は相続の際にも土地を手放さない地主が多いためか、最近めっきり増えた首都圏資本のビルに日照権を侵されながらも、まだ古い家屋が点在していた。
 階段を下り地下道を歩いていくと、完成したばかりの地下パーキングの精算機の前で品の良いグレーのスーツを着た若い母親たちが立ち話をしていた。彼女たちはその横で回転人形のよう飛び跳ねている自分の子供たちには目もくれない。入学式用に誂えた小さなブレザー。その首元に結んだ蝶ネクタイをつなぎあう手の先に見合いながら、子供たちは回り続けている。半開きの口からは言葉にならない声を発しながら。
 レストラン街を抜ける時には、雑多な食べ物の匂いが彼の後を追ってきた。物産展のワゴンが通路にまで迫り出したデパートの食品売場の前では、試食品を手にした店員が通行人を呼び止める声が響く。駅を起点に枝分かれしていた地下道が一つに集まる本道へ出ると、ティッシュ配りの姿が目につくようになった。



遠いデザインとは、遺伝子の設計図のこと。

13年前の2001年が舞台。
中年男が若い女性に憧れる、よくあるテーマの小説。
この歳になると。そんなことしか書けませんので…。
地域の産業支援を本格的にやりだしてから、
コピーを前みたいに書けなくなったので、
その手慰みのつもりで書いています。


Posted by Fuji-Con at 23:16

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遠いデザイン 11-2