2014年02月23日

小説の続き書きました。遠いデザイン 9-10


 なんか、オレたちの仕事にも通じるものがあるな、と七瀬は妙に納得してしまい、しばらくその画面から目が離せなくなった。
 一つ一つ手をかけてつくり上げても、鮮度が命の広告は情報が形を変えたものに過ぎないから、一回切りでお払い箱になってしまう。まあ、それは天命と涙を飲んでも、同じ専門職でありながらと、リサーチ系やエスピー系と違ってノウハウが蓄積できないのもつらいところだ。同じクライアントの類似広告でさえ、一個のブロックを手に取るように一から作りはじめ、しかも短い納期の中に待ち受ける困難さは果てしない。
 もちろん広告の分野にもノウハウらしきものがないわけでもないが、それが個々の仕事に適用できるかといえば話は別だ。経験のない新人のアイデアが「斬新な切り口!」とか言われて、クライアントから絶賛を浴びることが間々ある世界なのだ。
 ただ、そんなことを今あらためて考えてみても、気分の憂鬱度が増すばかりだ。差し当たっての急務は、とにかくこの直しを一刻も早く萌子に渡すことだと、七瀬は思い直して椅子を尻ではじき倒した。
 室長は「おっ!」と短い声を上げて、七瀬の機敏な動作に、彼はやる気を感じたのだと勘違いして目を細める。そして、遠ざかっていく七瀬の背中に向かって、付け足しの言葉を投げた。
「そうそう、七瀬ちゃん。萌ちゃんによろしく言っといてね。ほら、ディラーのやつらってさ、ふだん客にペコペコ頭下げてるだろう。店に入ってくるなり、若い娘にキモイとか、ムカツクとか言われたりして。だから、その分、こっちへの反動も大きいわけよ。主従の逆転っていうか、まっ、人間、やっぱし、どっかでバランスとんなきゃならないしね」



遠いデザインとは、遺伝子の設計図のこと。

13年前の2001年が舞台。
中年男が若い女性に憧れる、よくあるテーマの小説。
この歳になると。そんなことしか書けませんので…。
地域の産業支援を本格的にやりだしてから、
コピーを前みたいに書けなくなったので、
その手慰みのつもりで書いています。


Posted by Fuji-Con at 16:49

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