2013年12月15日

小説の続き書きました。遠いデザイン9-5

遠いデザイン 9-5

【いま、トレンディなデザイン旅館】【ケイタイ各社の料金徹底比較】【一日を癒す自宅アロマ湯】。目に飛び込んでくる見出しは、瞬時に次の見出しに追われるように消えてゆく。【ピンポイントでホームパーティーを盛り上げる】「だからさっきからいってんじゃないの!」【コンビニ別肉まん調査】「ここまできて、ひっくり返されたら、明日の朝までに再色校なんて、とても無理ですよ!」
 意識の内に聞き覚えのある声が昇ってきて、顔を上げると、いつそこに来ていたのか、サテライトルームの入口近くに室長が立っていて、七瀬もここ最近見かけるようになっていた印刷会社の男と言い争っていた。室長の傍らにはあの若い営業マンが太い腕を組み、肩を怒らせた威風堂々のポーズで突っ立っている。
 奧席の七瀬には、彼らの声がはっきりとは聞き取れなかったが、その様子からトラブっていることは明らかだった。ルーム内を陣取る面々は、入口近くの席からウエーブが上がるように顔を室長たちの方に向けはじめたが、申し合わせたようにその視線は冷ややかだった。さも、自分たちの打ち合わせを昼休みまで食い込ませようと目論む邪魔者が現れたとでもいうように。
「色校出たのに、イチからやり直しだってさ~」
 斜め向かいのテーブル席にいる通信社の若い営業マンが薄笑いを浮かべながら皮肉る声が聞こえてきた。
「ちゃんとやってくださいよ〜」と、短い頭の毛を針みたいに立たせた男のデザイナーが答えて、二人は咳き込むように笑いあう。
 そのうちに、「じゃあ、下りろよ! ほかにも、出すとこ、くさるほどあるんだからね!」という室長の声が~それはそれまでの言い争いの中で一番大きな声であったが~ルーム内に響き渡った。
 その頃には入口付近はすでに一種の劇場と化していて、七瀬を含めてその場に居合わせた面々は、この結末を予期しえない、悲劇なのか、喜劇なのかも判然としない寸劇にいつしか心を完全に奪われていた。



遠いデザインとは、遺伝子の設計図のこと。

10年ほど前の2001年が舞台。
中年男が若い女性に憧れる、よくあるテーマの小説。
この歳になると。そんなことしか書けませんので…。
地域の産業支援を本格的にやりだしてから、
コピーを前みたいに書けなくなったので、
その手慰みのつもりで書いています。


Posted by Fuji-Con at 18:07

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