2013年11月02日

遠いデザイン 9-4


遠いデザイン 9-3の続き

 地方の一支社とはいえ、メディア通信社は全国的に名の知れた大手広告代理店でもある。クライアントと直接取引するより料金は叩かれても、切れ目ない発注が見込めるため、地元の媒体社も制作会社もこぞってこの支社に営業にやってくる。七瀬のようなフリーの人間も、この地方都市でマスメディアの端っこに引っかかるような仕事にありつくためには、結局この支社に引っ付いていくしかない。
 地元の新聞社主催で毎年開催される広告賞に名前が連ねられないようでは、すぐに自分の存在など忘れ去られてしまう。東京の全国ネットの広告とは一桁違う制作料に涙を飲んで、広告めいた仕事の少ないパイ争いに興じているのは、何も七瀬のようなライターだけではない。デザイナーやカメラマンも同様で、彼らは広告代理店の代打要員ではなく、レギュラー選手となる日を夢見て、日々ご無理ご難題の荒波に揉まれながらその忠実度を競い合っている。
 打合せが終わり、室長に一声かけてくると言い残して美紀が戻ってしまうと、七瀬はさっきから頭上でチカチカ切り変わっている映像が気になりだしてきた。壁の上部には五台のTVモニターが一列に並んでいて、ニュース、ドラマ、教養、スポーツ、クッキングと、各局の昼の番組が無声で流されていた。その設備は新しい情報を絶えずキャッチするためのものなのか、それとも広告代理店らしさを醸し出すたんなる演出にすぎないのかわからないが、いつも神経をすり減らしている制作の人間を一様にイライラさせる効果だけはもっていた。
 七瀬は軽い苛立ちを覚え、席を立って、いろいろな雑誌の最新号が並んでいるマガジンラックから、適当に二、三冊引き抜いて、テーブルに戻りページを捲った。



Posted by Fuji-Con at 17:39

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遠いデザイン 9-4